何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】


天音は仕方なく、そろそろ帰ろうと立ち上がった。

「天音。」

(どうして、今日に限って、こんなに人と会ってしまうんだろう。
どうして、みんな私にかまうんだろう。放っておいてほしいのに。)

そんな風に思ったが、それを言葉にはしなかった。
そんな天音を呼び止めたのは、かずさだった。

「ピアスはどうしたの?」

(どうして、そんな事聞くの…?)

「…なくしたよ。」

天音は少し不貞腐れたように、小さくつぶやいた。

「そう…。」

かずさは、自分から聞いておきながら、そっけなく答えた。

「あの十字架は罪の象徴…。」

天音は、自分にも訳が分からない言葉を発した。
なぜだか、自分の口が勝手に動いている。
そんな状況を客観視している自分がもう一人いる。

「私が魔女の子だから…。」

いつから自分は、こんな事を言うようになってしまったのだろうか。

「…。」

やっぱり、かずさは何も答えない。
かずさは、今どんな顔をしているのだろう。
なぜかそんな事が気になったが、天音は顔を上げてそれを確認する事はなかった。

「こんなに寒いの初めてだ…。」

そして、また、そんなどうでもいい事を口にした。
(それは、また私の口が勝手に言った事。)

「そうね。」

相変わらず、かずさは相槌を打つだけ。
それ以上は何も言葉を発しない。

「…私は今、夢の中にいるのかな…。」

わかっている。これは夢じゃない。
なのに、また勝手に口が動く。

「夢だったら見れるかな…。」
「何を?」

天音がポツリとつぶやいた一言も、かずさはちゃんと聞いていた。
そして今度は、ちゃんと聞き返してくれた。


「……雪。」



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