何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「…眠れないのかね?」

廊下の窓から、ひとり空に輝く星を見つめる星羅に、士導長は声をかけた。

「…はい。」
「明日じゃのう。」
「…ええ。私はこの日を待ち望んできた。もう一度京司に会う日を。」

星羅は士導長の前で、その名を簡単に口にした。
口にする事を禁じられた天師教の名を。
だってもう、何も恐れるものなんてない。
全て明日終わるのだから。

「…。」

士導長は口を固く結んだ。

「…どうして京司を連れて行ったの…。」

星羅のその瞳は、まだ空の星を映していた。

「覚えていたんじゃのう…。星羅。」
「…答えられるわけないですよね。」

星羅のすっきりとした顔は、何か覚悟を決めたようにも見える。

「…何を話すつもりじゃ?天師教様と。」
「…さあ。わかりません」

星羅が微かに微笑んだ。

「…どうして天師教と妃候補を会わせようと思ったんですか?」

そして、今度は士導長へと視線を移した。

「天師教様への最後のチャンスじゃよ…。」
「…あなたはやっぱり、天師教思いなんですね。」

そしてまた、星羅は優しく微笑んだ。

< 172 / 287 >

この作品をシェア

pagetop