何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「…眠れないのかね?」
廊下の窓から、ひとり空に輝く星を見つめる星羅に、士導長は声をかけた。
「…はい。」
「明日じゃのう。」
「…ええ。私はこの日を待ち望んできた。もう一度京司に会う日を。」
星羅は士導長の前で、その名を簡単に口にした。
口にする事を禁じられた天師教の名を。
だってもう、何も恐れるものなんてない。
全て明日終わるのだから。
「…。」
士導長は口を固く結んだ。
「…どうして京司を連れて行ったの…。」
星羅のその瞳は、まだ空の星を映していた。
「覚えていたんじゃのう…。星羅。」
「…答えられるわけないですよね。」
星羅のすっきりとした顔は、何か覚悟を決めたようにも見える。
「…何を話すつもりじゃ?天師教様と。」
「…さあ。わかりません」
星羅が微かに微笑んだ。
「…どうして天師教と妃候補を会わせようと思ったんですか?」
そして、今度は士導長へと視線を移した。
「天師教様への最後のチャンスじゃよ…。」
「…あなたはやっぱり、天師教思いなんですね。」
そしてまた、星羅は優しく微笑んだ。