何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「あなたに返すつもりじゃなかった。」
「じゃあ、なんで持ってきたの?」

かずさが天音の手をそっと握り、そのピアスを渡した。

「私が持っていたくなかったから。」

なぜか、少し寂し気にかずさがつぶやいた。

「…今の私にはつけられない…。」

そして、天音が力なく小さくつぶやいた。
今の自分には、それをつける資格はない。
なぜだかそんな風に感じた。

「それでもいいわ。もし、いつかその時が来たら。」

辺りはすっかり暗くなって、かずさの表情はよく見えない。

「彼は気づいたわ…。」
「え…?」

その言葉に天音は小さく声を漏らした。

「天音。あなたを変えられるのは、あなただけよ。」

ザ―
風が雲を運んでいく。
そしてまん丸の月が雲の隙間から顔を覗かせた。

「彼は町の入り口にいるわよ。」
「かずさ…。」

天音は顔を上げ、月に照らされたかずさの顔を見た。

「…今日は満月ね…。」

そう言ってかずさが天音に背を向け歩き出した。
城に向かって…。



大きく顔を出した満月が、城とこの町を見下ろしていた。


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