何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「この国を潰したいのなら、石を見つけるのね。」

そんな天音を見据えたまま、かずさが言った。

「国なんて…。どうでもいい…。」

天音もある意味、月斗と同じ…なのかもしれない。


(私の大切なモノは…。)


「関係ない?本当に?全てを握っているのは国なのよ。」
「…。」

そんな天音の心を見透かしたように、かずさは尚も畳みかける。
まるで、彼女の中の何か黒い感情を引き出すかのように…。


「———あれは長い夢だった?」


かずさがわざとらしく、低い声で小さくつぶやいた。


「え…?」


しかし、その声は天音の耳に確かに届いていた。
その証拠に、天音が少しだけ顔を上げた。
気づくと、いつの間にか天音のすぐ目の前には、かずさが立っていた。

「また忘れればいい?」
「…何を…。」

その言葉を遮るように、かずさが天音の方へと手を伸ばした。
そしてその手は、天音の耳に揺れる、十字架のピアスに触れた。

「あなたは知っているはずよ。石を見つける理由を。」
「さわらないで!」

パシッ

天音はすかさず、かずさの手を払う。

「天音…。」

りんは、すっかり変わり果てた天音の姿を、心配そうに見つめる事しか出来ない。
(天音の目は、もうあの頃とは違う…。)

天音は歩を進め、黙ってかずさの横を通り過ぎた。

「…どこ行くつもりだよ…。」

すると今度は、月斗が天音の背中に向かって、言葉を投げかけた。
そう、天音のひきずる足が向かう先は決まっている。

「城にまた戻るってか?バカかお前?」

月斗は天音に向かって、そんな罵声を浴びせたが、天音の足は止まる事はない。

「え…。」

りんは大きく目を見開いた。

彼女は確かに期限通りに帰ってきた。
そして、また、城に帰るという事は…。

「天師教の妃になってどーすんだよ。あいつがいる限りこの国は変わんねーよ。」

天音は、やはりそんな月斗の言葉に、振り返る事無く歩を進めて行き、その姿はみるみるうちに小さくなっていく。


(月斗の今の言葉は、今の天音の耳に届いているんか?)


「ハハ。傑作だな!」


りんは、この月斗の声が、天音へと届いていない事を願う事しか出来なかった。


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