何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「天師教さんは、どうして天師教になったんだろう?」
天音は部屋の窓から、空に浮かび上がる月を見上げていた。
「え?それは決まってたんだから、しょうがないよ。」
華子は、天音が独り言のようにつぶやいたその一言を、しっかりと聞いていた。
「決まってた…。」
「代々、子供が親の後を継ぐのが、この国の決まりでしょ。」
華子は、当然の事のようにそう話した。
もちろん士導長の授業でもそう習っていた。しかし、常識のない天音には、それが当たり前だという事がよくわかってない。
「嫌だったりしたのかな…。」
なぜか天音は、そんな事を考えていた。
それは始めから決められた運命。他に選択肢などはない。
そんな運命に、天使教は何を思ったのだろうか。
「クスクス。」
そんな天音の言葉を聞いて、華子は口元に笑みを浮かべた。
「やっぱ。天音は面白いね。」
「へ?」
天音は、華子のその笑みの意味がわからず、キョトンとした顔で首を傾げた。
「やっぱ、天音は妃に向いてるよ。」
そして華子は、優しい声でそう言った。
「え…?華子だって妃になりたいんでしょ?」
そんな事を突然言い出した華子に、天音は困惑の表情を見せた。
妃の座に座れるのは、たった一人。
天音と華子は、その座を奪い合う、いわばライバル。
しかし、華子はまるで、天音にその座を譲るような言い方をした。
しかし…
「うん。もちろん!!」
華子は、自分が妃を諦めたわけではない事を、自信満々に答えた。
「何それ。」
そう言って天音は笑った。
そして、華子の複雑な頭の中を簡単に理解するのは、誰にも無理なのだと、簡単にあきらめた。
「でも、星羅はむいてないと思うな。」
今度は、華子が窓の外へと目をやり、きっぱりとそう言い切った。
どこへ行ったのかわからないが、幸い、星羅は今この部屋にはいない。
「え…?」
その言葉に、天音はまた驚きの表情を浮かべ、固まった。
「星羅、美人だけど、怒ると恐いし!」
しかし返ってきた答えは、天音が想像していたものではなく、まるで子供がお母さんを表現するような、幼稚な答え。
「へ?」
華子が向いてないと言ったのには、もっと何か深刻な理由があるのかと思っていた天音は、調子抜けしたような声を出した。
「それに、歌手になった方が、絶対向いてると思う!!」
華子は満面の笑みでそう言った。
「…そうだね…!」
そして天音も微笑んだ。