何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
ポチャ
「…。」
その日の夜更け、城の見回り中の辰は、なぜか普段は訪れる事ない、この中庭の池のある場所に来ていた。
そこは静寂に包まれ、この時間は当たり前のように誰もいない。
「鯉はもういない。」
その静寂を切り裂くように、辰の背後から声が聞こえた。
まさか背後を取られていたのだという事には、今の今まで気が付かなかった。
「…。」
辰は取り乱す事なく、落ち着いた様子のまま、後ろを振り返った。
「お前は…。」
「さすが城の兵士ね。まったく動じないのね。」
「…。」
「ここで、天使教と天音は出会った。」
まったく微動だにせず、表情も変えない辰に向かって、かずさは淡々と話し続けた。
しかし、そんな彼女の突然の告白に、辰は返す言葉が見つからず、眉をひそめた。
彼女が何者かはわからない。なぜ天音の事を知っているのかも。
しかし、不思議と彼女からは攻撃的な感情は感じられず、危害を与えようとしているわけではない事は明確だった。
「大丈夫。天師教は、当分部屋から出させてもらえないわ。こないだの演説の事があったからね。」
「…。」
この女はおそらく自分と天音の関係を知っているのだと、辰は瞬時に感じ取った。
しかし、なぜこの女がそんな事を知っているのか?次から次へと浮かびあがる疑問が、辰の頭を占領していく。