揺るぎのない愛と届かない気持ち
「毎日毎日、
自分の意に染まない生活を送っていたわ。

お父様は
あんなに出来がいい跡取り長男だから、
まぁ、
お義母さまやおばあさまのご自慢でね。
このわたしをお嫁にもらったのは、
その器量と家柄が一番ですって、
言われてた。

江戸や明治時代じゃあるまいしって、
思ったけど、高木家の嫁として
対外的には外見が良くないと、
いけなかったらしい。

私より綺麗な人なんて、
世の中にわんさかいる。
お母様のことをお気に召さなかったら、
すぐに離縁されて、
よその誰かに
首をすげ替えられるのかしらって、
思っていたわ。

お父様にそのことを、尋ねたら、
君が高木家の嫁としての努力を
怠ったらそうでしょうね。
って。

本当に心の底から、この結婚を後悔したわ。
私の夫は私ではなく、
高木の家に見合う人だったら
誰でもよかったんだって。。。

でもね、あの時代でしょ、
今更実家に帰るわけにもいかず、
そのうち、高木家の嫁は私にしか務まらないって、
おばあさまに認めさせてやる!って、
私の決意が
変な方向に向いちゃったのよ。」

母はこうやって絶えず努力をする人なので、
最終的には高木の祖母は
母なしではいられなくなったほど、
完璧な嫁となり、
結果、祖母の晩年には、全幅の信頼を
寄せられていた。

「もうお父様の妻というより、
高木家の嫁ということに徹したのよ。
そうなると、お父様は二の次ね。
ご自分で嫁になる努力をしろって
おっしゃったのだから。

そのうちあなたを妊娠して、
お祖父様が倒れられて、
口ばかりのお祖母様は使い物にならずに、
私が前面に出て介護を始めたの。

お祖母様は、
あなたの子守一つできられなかった。

若かったから平気だと思っていたけど、
あなたを産んでから、おっぱいが出なかったのよ。
ストレスと疲れよね。

そのことで母親失格って言われたから、
初めてお祖母様に楯突いたの。

それでは、ゆっくりとおっぱいが出る環境に
移らせていただきますって。

で、黙らせたんだけど。」

母はこういう強気の発言もできる人だ。
決して人を貶めたり、陰で悪く言ったりはしない人だ。

正面切って反論された
お祖母様はきっと、ぐぅの音も出なかったに違いない。


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