揺るぎのない愛と届かない気持ち

彼女から 〜紗英

つい先日の東吾さんからの連絡は
彼の退職を巡っての長内さんとの話だった。

私がいい気分ではないかもしれないがと
断って、
彼女との話を教えてくれた。

長内さんは東吾さんを好きというより
東吾さんが自分を女として、
愛してくれたことがなかったという
事実を突きつけれて
いっそう彼に執着しているのではないだろうか。

今でも諦めなくては思いながらも、
心はついていかない、、、

東吾さんの自分に対する態度に、
また、
彼女は傷ついたかもしれない。

彼女の行き場のない気持ちはわかるが、
周りを充分に傷つけた彼女は、
これ以上何をしたいのだろうか。

そのことを思うと私も一人の人に
執着するのが怖くなる。
私の中にも長内さんと同じような気持ちが
あるのではないか。
東吾さんに執着するあまり、
周りが見えなくなっていくのではないだろうか。

「紗英ちゃん、、、
どうしようか、お母様迷ったのだけど。。。」

母にしては恐る恐ると言った感じで
話しだした。
母らしくない。

「お父様はそんなのうっちゃとけって
おっしゃるのだけど。
私は、やっぱり本人に知らせもせずに、
打ち捨てることもできなくって。」

そう言って
敷いていた座布団の下から
1通の手紙を取り出した。

受取人は私の名前で、
差出人を見ると

『長内 薫 』

長内さんからの手紙だった。

住所はここ、実家の住所だ。
どうして彼女はこの住所を知り得たのだろう?

「開けないで返送することも可能よ。」

「気になるから、開けます。」

手で封を切った。
ギザギザとした切り口が、心地悪く思えた。
きっと
中身も心地悪い内容かもしれない。


< 63 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop