揺るぎのない愛と届かない気持ち
私は彼女からの手紙を読んだ。

簡潔に1枚の便箋に認めてあった言葉は、
謝罪と私に会いたいという言葉。

「私に会いたいって。」

「会って何をおっしゃりたいのかしらね?」

「謝罪なら、手紙だけで充分でしょ。」

「この間の言い訳なのか、
まだ東吾さんに未練を残してあるのか、、、」

「どうする?
代理人を立ててもいいけど。」

「お母様じゃ、圧が強すぎるでしょ。」

なんとなくワクワクとしている母を制するように
私は言った。
母が出て行ったら、間違いなく長内さんは、
母のいいようにされて、思っていたことの
半分も言えないだろう。

私は、正直言って、
あの日のことを忘れたわけでも
許したわけでもない。
彼女の裸体も脳裏から消えることもないし、
並んでいた二人のことを思い出しては
目の裏が、いまだにスパークする感じがする。

それを繰り返すたびに、
東吾さんとはやり直せないと
思うほどだ。

かと言って
もう一人の当事者、
長内さんはあの時どう思っていたのか
彼女の口からその思いを聞きたい気もした。

前に進めない。

苦しいけど、前に進めない。

「紗英ちゃんは会って彼女の口から、
彼女の思いを聞きたいのよね。」

「。。。。。」

「彼女のことはお母様にもわからないけど、
思い詰めた人が何か恐ろしいことを
引き起こすかもしれない。

もし
会うんだったら、
お父様のオフイスの相談室を借りなさい。
お父様には、異変があったら入って
もらうけど、
それ以外は立入禁止と、きつく言っておくから。
秘書の前島くんにも、言っておく。」

「なんだか、敵地に呼び寄せているみたいで、
それだけで萎縮されるかもしれない。
もうちょっと気軽なところにしたいけど。」

「知らないところはダメよ。
お父様のオフィスがダメなら、
うちのカフェの個室になさい。
ちゃんと何かあったら、
みんなが瞬時に動いてくれるところ。
これが杞憂だったらいいけど、
そうじゃない場合も想定してね。」

うちのカフェとは、
母が投資しているカフェテラスのことだ。
そこには何室か個室がある。

「わかりました。店長さんには、
私から連絡しても、
お母様が再度連絡されるんでしょ。
長内さんに連絡をとるので、
カフェの詳細が決まったら教えてください。」

「本当に厄介よね。。。。あなたのその性格。
私にそっくりなのだけど、苦しくっても、
自分で全てを知らないと気が済まない
なんて。。。

さぁ、
私は、あなたを守らなくてはいけない。
周りを固めておかないと、、、」

母はそう言って立ち上がると、
三時にしましょうか、、、と呟きながら、
お台所に向かって行った。

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