揺るぎのない愛と届かない気持ち

彼女から2 〜紗英

長内さんの口調が、だんだんと憑きものに
取り憑かれたかのようなってきて
私は怖くなってきていた。
母が言っていたように、人間追い詰められると
何をするかわからない、、、

「紗英さん、、、」

長内さんが私の方を向いて名前を呼んだ。
そのギラギラとした瞳が恐ろしい。

「私はね、
婚約者もなくし親からも勘当され、
東吾からも捨てられたの。。。
なのに
あなたは立派な親もいて、お金持ちの実家もあって、
東吾との子供もいる。
これ以上何が欲しいの、、、

お願い。
東吾を私に返して、、、
私は東吾までいなくなったら、
生きていけない。
お願い、東吾を私に頂戴!」

長内さんのその小さな手にこれほどまでの力があるなんて、、、
掴まれた手首が折れそうに痛い。

「長内さん、東吾さんはものじゃありません。
あなたは東吾さんを、
ずっと見て来たと言われたけど、
東吾さんの何を見てきたの?
そういう気持ちで彼が振り向くわけないでしょ。

婚約者と別れたことも、ご自分のせいでしょ。
私のせいではないはずです。」

「いいえ!
あなたさえ現れなければ、
東吾は私とやり直していたはずよ!!」

もうダメだと思った。
彼女の目は常軌を逸した人の目だった。
怖いと思った瞬間の短い間に、
これは私のせいでも彼のせいでもなく
彼女自身の問題なのだと、私は知った。

「人のせいにしないで。」

「あんたさえ居なければよかったのよ!
会社も辞めるなんて、、、
私に東吾を返して、
そして、あんたは目障りだから死んで!
子供は東吾の子供だから、私が育ててあげる!」

滅茶苦茶な事を叫ぶ長内さん。
どうぞ、誰か気づいて。

長内さんはどこに隠し持っていたのか、細身のナイフを持ち上げて
もう片方の手で、私の手首を持ったまま、襲い掛かろうとした。
その顔は醜く歪んでいた。
あんなに可愛らしい顔が、、、別人だ。

私は精一杯の力で、
手首を掴んでいる彼女の手を振り払った。
同時にテーブルの上のカップが
下に落ちて割れる音。。。
その音より先だったろうか後だったろうか、
ドアが勢いよく開けられて私に向かって
人が飛び込んできて、私を覆うように抱きついてきた。

東吾さん、、、

「ぎゃあっ!!
東吾、やめて、どいて、
あなたを殺したいんじゃない!
彼女を
殺したいのよ!」

私を覆うように抱き着いてくれた
東吾さん越しに見えた長内さんは
もう、数名の男性に取り押さえられていた。

「長内!
自分が何をしているのかわかっているのか!

恨むなら俺を恨め!紗英は何も関係ない!

俺の大事な人をこれ以上、傷つけるな!」

東吾さんの大音声が鳴り響く。

そんな彼の怒りが長内さんにも届いたのか、
一気に脱力して床にへたり込んでしまった。

「紗英、大丈夫か?間に合ったか?」

「東吾さんこそ、、、えっ!!東吾さん腕!!」


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