揺るぎのない愛と届かない気持ち
東吾さんは私を長内さんの刃から、
身を挺して守ってくれた。

結果
彼女が振り下ろしたナイフは、
東吾さんの左上腕部を傷つけてしまった。
ジャケットからシャツを突き抜けて、
ナイフが突き立てられている。

これはもう
私を傷つけるというより、
殺害する目的だったとしか言えない行為だ。

長内さんは警察官に連行され、
東吾さんは救急車に乗せられて病院へ。
私は、東吾さんに付き添った。

後で聞いたら、救急車の中が一番傷口が
痛かったそうだ。
幸い、出血も酷くなく、少し傷は深かったが、丁
寧に処置をしてもらい
その日は、私と一緒に高木の家に帰った。

彼が入院することを嫌がった、、、
私と離れることを嫌がったからだ。

私は東吾さんを連れて、高木の家に戻った。

帰宅すると
母が珍しいことに元気なく項垂れている。
父から、
今回のことでなんという軽率なことをしたのかと、
非常に叱られたと言う。
それならば、周りのものに口止めをして、
父のオフィスではなくカフェで会うように
手筈を調えてもらった私にも責任がある。

「東吾くんや、他のスタッフの踏み込みが
一歩遅かったら
紗英が刺されていたのかもしれないんだぞ。

本当に君らしくない計画だったね。」

リビングで父が渋面をして母を叱る。

「はい。本当に私の至らなさで、
東吾くんや紗英ちゃんを
危ない目に遭わせてしまいました。

東吾くんが間一髪で
紗英ちゃんを助けてくれたけど、
刺されてしまって、、、」

「いえ、
元はと言えば自分の至らなさのせいです。
お義母さんから今日のことを教えて頂いて、
本当に良かったと思います。

長内の様子が変なのも、
気になっていましたから。」

「東吾くんは入院しなくてよかったのか?
諒子さん、東吾くんを横にしてあげなさい。」

父は東吾さんのことが原因とは言え、
私を助けてくれたと言うことで、
とても感謝をしているようだった。

「ありがとうございます。
大丈夫です。」

彼はそういうと少し姿勢を正した。

「本当にこの度は、自分の至らなさから、
大変な事態を引き起こしてしまい
どうお詫び申し上げてよいやら、、、

そしてその長内のことですが、
私は自分が刺されたことによる
この件での告発はしないつもりです。」

東吾さんが言い切った。

「長内が可哀想とか、未練があるとか、
そんな気持ちは一切ありません。
ただ、
あんなになるまで彼女を追い詰めた原因は
自分にあります。
長内は精神を少し病んでいるのかと、、、
わかりませんが、

それなりに療養してくれて、
できれば紗英たちに近づけないように、
禁止命令が出ればと、、、

甘いでしょうか?

ただ
紗英を襲ったことはこれとは別です。
厳重に罰してほしいと思っています。」

「紗英はどう思う?東吾くんに異論があるなら、
ここではっきりと言いなさい。
狙われたのは君だ。」

重々しく父が言うと、東吾さんの身体が緊張で
ちょっと硬くなった様子がわかった。

「私は道義的に
自分が何をやってしまったのかを、
彼女には知って欲しいです。

その結果、
今よりもっと生きづらくなるかもしれません。
東吾さんに関しては、
私は彼がそう考えたのなら、
異存はありません。

私を襲う彼女の目は、常軌を逸していました。
それははっきりとわかります。
そのことを、
全ての免罪符にしてほしくないと言うのが、
襲われた私の思いです。」

「わかった。。。
こちら側の代理人として、
うちの弁護士を立てよう。
あちらはどうなるだろうね。。。
諒子さん、
君の意見も聞きたいから僕の書斎に来てください。

東吾くんも紗英も少し休みなさい。」

そう言って父はリビングを出て行った。

「東吾くん、さっきは急いでたから
慶の服で間に合わせたのだけど、
改めてこれ、着替え。

紗英に手伝ってもらって着替えなさい。

紗英ちゃんもお風呂の用意はできているから。
悠はふみさんに来ていただいて、
見てもらっているから心配ないわ。」

ふみさんには別邸の仕事もあるというのに
ことあるごとに呼び寄せて
申し訳がない。


< 69 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop