揺るぎのない愛と届かない気持ち
そう
私は臨月を迎え、実家に帰っていたのだ。

子供を授かるまで、
私たち夫婦は意見の食い違いなどもあり、
話し合いに話し合いを重ね、
もうしばらく二人でいようと
結論を出したところの、予期せぬ妊娠だった。

主に私が、
自分のキャリアを積みたいがために
この時期に子供を作るのを躊躇っていたのだ。
東吾さんは、順調にキャリアを重ね、
最年少で管理職コースを歩いていた。
私も自分の仕事が好きだったし、
一生続けて行こうと思っていたので、
やはりしばらくこのまま、
キャリアを積みたかった。
目の前に管理職のポストも見えていた。

こういう時期に妊娠育児のブランクが
怖いという、
実に私だけの勝手な思いだったのだ。

しかし
案ずるより産むが易し、ではないが、
予期せぬこととは言え、
私は妊娠に当初戸惑いはあったものの、
胎内で育つ我が子に、
愛情が湧いてきていた。

もちろんつわりや、
自分の身体なのに言うことを聞かない
身体や気分を持て余すことはあったが、
これから生まれてくる我が子を
愛おしく思う自分に、
これが母性なのかなと、思った。

その反対が東吾さん。
あんなに子供を欲しがっていたのに、
いざ妊娠すると何かこう、
何を考えているのか、
うれしいのか、うれしくないのか
もどかしいほどの距離を感じることがあった。

もしかして、本当に予期せぬ妊娠に喜びが
どこかに追いやられた?
二人で喜び合うを分かち合うはずの
マタニティライフが、
幾分ぎこちないものになっていた。

彼は本当のところ、どう思っているのだろうか。
本当に今子供が欲しかったのか否か。

臨月に入り、
もういつ産まれてもいいというときに
実家に帰って、出産を待つだけの私は、
どうでもいい忘れ物だけど、
自分の枕を取りに戻った。
実家での枕も悪くなかったが、
やはりどうしても使い慣れた枕が欲しくて、
わざわざ行かなくても、
私が車で取りに行ってあげるという母に、

「こうやって、一人で電車に乗って
ゆっくりと歩けることも
子供が生まれたら、しばらくできないと思うから、
自分で行ってくるわ。」

と答えて、
実家から車なら30分ほどの自宅に電車に乗り、
最寄りの駅で降りて
いつもの商店街を抜けて、マンションに着いたのだった。

母に行ってもらわないでよかった。
いくら気丈な母でも、
あの状況の東吾さんに出くわしたら、
腰を抜かしたかもしれない。


思ったのは意識を失う前か後か。。。


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