私を赤く染めるのは
碧人side

       ❨碧人side❩


ゆづと出会ったのは俺が中2の5月頃。

初めて紫月の家に遊びに行った時のことだった。


「こんにちは。お兄ちゃんの友達ですか?」

「あ、はい。こんにちは。橘碧人です」

やけにしっかりとした小さな女の子。

歳を聞くとゆづはまだ9歳。小学3年生だった。

中学生の俺が言うのもなんだが、出会った頃のゆづはまだまだ子供。決して恋愛の対象ではなかった。



「碧人くんー!この問題教えて」

夏休みになってからはしょっちゅう紫月の家に入り浸っていた。

高校に入学してからは、うちで過ごすよりも紫月の家で過ごす時間の方が多かったかもしれない。

「碧人くん高校って楽しい?」

「まぁまぁ?」

「私も早く高校生になりたいな〜」

ゆづは中学生になっても俺の中ではまだ子供のままだった。

そんな可愛い“妹”のようなゆづを好きになったきっかけは、ほんの些細なことだった。


うちの父親は会社の社長をしていて、昔から自分の跡を継げと口うるさく言われてきた。


子供を駒としてしか見てない父親とは年々口を聞く数も減っていき、大学への進学を希望していた父と就職希望だった俺との間では毎日のように口論が続いていた。


「じゃあ碧人くんは高校を卒業したら就職するの?」

ゆづの宿題を見ていると、唐突に俺の進路の話になった。


「今、知り合いのバーでバイトしてるんだけど、卒業したらうちに来ないかって誘われてる」

「え、そうなの?でも、もう一度考えたほうがいいよ」


それは何十回、何百回と言われた台詞。

ああ、こいつも父親や教師と同じことを言うのか。

……って、5つも下のゆづに何を求めているんだか。

「いいんだよ。それで」

「で、でも!お父さんの意見に反抗するために就職するなら絶対やめたほうがいいよ!だって、そんなの碧人くんがもったいないもん」

「……は?」

ゆづから返ってきたのは意外な言葉。

そんなことを言われたのは初めてだった。





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