私を赤く染めるのは


「別に大学に行ったからって絶対会社を継がなきゃいけないってことはないでしょ。碧人くんなら起業とかもできそう…!碧人くんの将来は碧人くんだけのものだよ」

そういえば、いつからか父親に反発することだけを考えていた。

自分の将来と真剣に向き合ったことなんてなかったな。



ゆづのそんな一言で俺はあっさり大学への進学を決めた。


その頃からだろう。

ゆづを他とは違う特別な相手だと認識し始めたのは。

入った学部が教員免許を取れることもあり、その後はトントン拍子。
気づけば教師に。

ただ、ゆづの高校に赴任したのは本当に偶然だった。


「おはよー。碧…じゃなくて、橘先生!」


「おはよー。じゃなくて、おはようございます、な」

今ではゆづと一緒に学生生活を送れているような気分で、それなりに充実した毎日を送っている。




「熱視線ですね、先生」


いつの間にか隣にいた朱莉ちゃんは満面の笑みで俺を見ていた。

朱莉ちゃんはゆづの友達で、彼女のことも小学生の頃から知っている。

「何が熱視線だよ。ほら、さっさと教室に行きなさい」

「はーい。結月、教室行こ」

「うん!」


教室に向かうゆづの背中を見ながらぽつりとつぶやく。




「好きだって言えるのはまだまだ先かな」


ゆづが20歳になった時、俺は25歳で、

ゆづが25歳になった時、俺は30歳。

大人になってからの5歳差なら大したことないだろう?


その時、ゆづの隣にいるのが俺だったらいいいな。





……長期戦は覚悟してるから。





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