激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす
その後、ガラスの耐久や種類を教えてもらいつつ、初心者向けのステンドグラス工房で、スタンドミラーを作らせてもらった。
二時間ぐらいかかったけれど、薔薇の花びらが散る美しいステンドグラスが出来て、私も満足だ。
「薔薇の花びらのステンドグラスも綺麗だが、本物には負けるよな」
庭に出て、本物の薔薇を見て彼は何か悩むようにうねった。
「まあ。でも一番美しい姿が閉じ込められていますよね」
「好きな香りの中で、本当の記憶を浮かび上がるために作りたいのだが、偽物ならいらない」
「そうですか? 可愛いですけど」
「偽物を一番上に乗せて上書きするのも俺は嫌だな。――過去に囚われすぎてるか」
そう言った彼は、薔薇を一つ掴むと、棘も気にせずに摘もうとする。ちぎれていく花弁。
そんなに積み重ねたら、何の花びらか分からないし、まるで忘れられた記憶を埋めるような乱雑なやり方だ。
「……仕事の話ですよね? アロマの中に入れる花の話。本物をボトルに閉じ込めたいって話、ですよね」
仕事中だという意識を思い出させようとしたが、彼は私を真っすぐ見た。
「そうだな。記憶の中より本物が欲しい。ボトルの中の話だ」
「……そう。仕事中ですもんね」
「まあ! 副社長、何をしてらっしゃるの」
美術館長がヒールの音を響かせながら真っ青な顔でやってきた。
「ああ、すまない。つい」
「ついではありません。この美術館は私が丹精込めて育てた花で埋め尽くしています。なんて酷いことを。ああ。花瓶に植えなければ」
上品なご年配の女性は、ぴしゃりと怒ると花びらが毟られた薔薇を大事そうに
受け取った。