激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす
彼に手を振って駅の横にあるホテルへ行こうとして、腕を捕まえられた。
「ふむ」
彼は、無意識に私の手を掴んでしまったのか自分でも一瞬驚いてから考え込む。
「まだ仕事が少し残っているんだが付き合ってくれ」
「えっ」
「それが終わったら、俺が君を保護するから」
かなり酔っている夜だった。
真っすぐに帰りたくない。
それに今更遠慮する仲でもないか、と私は素直に頷いた。
車は数十分走ってから、大きな屋敷の前で停まった。
門の向こうに薔薇が巻き付いたアーチ形の日よけ用の天井が続く奥に、小さな公園が見えた。
車から出たら、花の香りがぶわっと入ってきそうなほど、いろんな花が咲き乱れている。
「実家なんだが、両親が留守にしている間、偶に風通しや見回りに来てるんだ」
「え。庭が素敵だからここも美術館かと思いました」
「一応業者にお願いしてるからな」
門をくぐると花の香りに包まれる。
ああ、本当に素敵。
アーチの天井も、その天井に巻き付く花も、生い茂る木々も、昔読んだ秘密の花園のように物語の中の挿絵みたい。奥には屋根付きのカフェテラスみたいにテーブルと椅子が並べられている。
「人は、その香りが漂ってくると、気持ちや思い出がよみがえることがあるって言ったな」
「はい。プルースト効果ですね」
フッと達観したように唇だけ笑って、胸の内ポケットから小さな包みを取り出した。