激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす
ただ気持ちを切り替えて、恋愛をしたいかというと怖い。
もう恋愛はしたくないと私がブレーキを踏んでいること、分かってる。
難しいことを考えないで、一緒に居たいか居たくないか、と言うと……今すぐその首筋に顔を埋めてずっと離れたくない。そう、本能は言っている。
「美優」
もう一度名前を呼ばれて、唇を指先がなぞる。
唇は重なろうとするすれすれのところで、カリカリと誰かが爪を当てる音がした。
「犬!」
近くの木をカリカリと叩いているのは、モップ……ではなく毛で覆われたもこもこした犬だった。
彼もモップのような犬を見て、驚いている。
「犬の鳴き声がすると聞いていたが、本当に迷っていたのか」
「おいで」
モップおばけ、と言われそうなほど伸び切った毛。温かいかもしれないけれど毛先が薄汚れているし衛生的に良くない。私に尻尾を振るあたり、人間になれている気もするし、飼い犬だったのかな。
抱っこしようとしたら、犬は尻尾を振ってジグザグに逃げる。思わず眉をしかめてしまった。
犬の匂いではない。私の嫌いな香りが微かに残っている気がして。
「おいで、モップちゃん」
手招きすると、遊んでもらえると思ったのか弧を描いて回りだす。小さな尻尾がブンブン揺れている。近づいて抱きかかえようとすると、驚いて飛び上がり庭の奥へ行ってしまった。
「もしかすると、庭の奥に抜け穴があるのか」
宇柳さんも逃げた犬の方に向かっていく。
「奥は手入れが行き届いていないのか。やはり。見ろ、あそこだ」