白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい

 そう思うのだけど、その仕草や人のよさそうな笑顔は兄と少し似ていて……。
 頭を下げ続けるその男性に、むしろこちらが申し訳ない気がして、私は口を開いていた。

「はい。もしよければ……いただきます」
「よかった」

 男性はそう言ってほっとした顔で笑うと、先に分けてもらっていたのか、プリンが二つ入った箱を私に渡した。

(やっぱり変な人……)

 そう思って思わず笑ってしまった。
 普段だったら初めて会う男性とこんなやりとりするのも珍しいのに。

「お支払いはします」

 私が財布を出したその時、その男性のスマホが鳴る。

「すみません、急ぎの連絡が……。お支払いはいいですから。では失礼します」
「ちょっ……! 待ってください」

 私が止めるのも聞かず、男性は電話をしながら足早に去っていった。

「行っちゃった。何だったんだろう……」

 私はその後姿を見つめる。
 変な人だったなぁ、と思うけど、どうしても警戒する気にならなかった。

 だって……

「やっぱりちょっと……お兄ちゃんに似てた」

 思わずそうつぶやいていた。

 兄に似てるってことは親戚だろうか? でも会ったことない人だった。

 それに顔が似てるというよりは、雰囲気が似てると言うか……。
 初めて会ったのに、初めて会った気にさせない人懐こい感じと言うか……。

 営業か何かのお仕事だろうか。近くに勤めているなら、またどこかで会うかもしれないな。その時は必ずもう一度お礼を言って支払いをしよう。

 そんなことを思いながら帰路についた。
< 125 / 232 >

この作品をシェア

pagetop