白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい

 その時、「ふたばさん」と静かな落ち着き払った声が耳に届く。
 振り向くと、そこに工藤さんが立っていた。

「僕は……この東雲総合病院の精神科医で、工藤晴信といいます」

 そう言って工藤さんは人懐こい笑みで微笑んだ。

「工藤さん……お医者さんだったんですね」
「似合いませんよね。僕は、この通り白衣もあまり着ませんし」
「いえ……」

 そんな想像全然してなかったので驚いただけだ。
 工藤さんはにこりと笑うと、手に持つ二つのカップを私に見せる。

「僕と少しだけ話をしませんか? これ、コーヒー淹れてきたんです。琥白は、これ飲みながらあっちで少し待ってて」

 戸惑う私をそのままに、工藤さんは一つのカップを琥白さんに渡してあちらに行かせる。
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