白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい

 パリに着いてから、私たちが真っ先に向かった場所は、兄が住んでいたアパートメント。
 私は一度もここに来たことなくて……。

「これまでお兄ちゃんが住んでたところ、足を踏み入れられなかった。一緒に来てくれてありがとうございます」
「いや」

 もうそこには兄はいないと知るのが怖かった。
 行ってみると、今はそこには幸せそうな夫婦が住んでいた。

 私はそれを見て、やっぱりお兄ちゃんはいなくなったことを実感していた。


「ここに琥白さんと来られて、本当によかった」

 そう言いながら、やけに泣けてきて……
 琥白さんはそんな私の背を撫でて、そのままじっと静かに隣にいてくれた。
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