白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい

 もう一度確かめたいのだが、私は今、『パリにある』ロテル・リッツホテルの中のバーカウンターに座っている。
 都内なら『偶然』なんて言葉も出てきそうだが、ここはパリだ。

 いや、そもそもパリで琥白さんと会うはずはない。
 彼は『今日、ここにはいないはずの人物』なのだ。

「まるで幽霊でも見たような顔ですね」

 琥白さんはそう言うと、驚きのあまり固まり続ける私に何の遠慮もなく、私の隣の椅子に腰を下ろして、いつものように私をまっすぐ見つめると、愛おしそうに目を細めた。
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