一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「杏香」

 名前を呼ばれてはっと顔を上げる。

「ごめん、変な空気になっちゃった。悪い人たちじゃないんだよ。ただ、娘の出来がよくなくて失望しただけ……」

 深冬の腕が腰に回り、私を彼の方へと抱き寄せる。

「十年前から気になってはいたんだ。ときどき妙にネガティブだっただろう? 普段は明るくて前向きなのに、どうして急に身を引こうとするかわからなかった。あの夜だってそうだ。自分はつまらない、かわいくない、俺と付き合えているのは奇跡だと言っていた」

「よく覚えてるね」

< 123 / 261 >

この作品をシェア

pagetop