一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「私はあなたと同じくらい、深冬を大切だと思っています」

 彼の問いかけの答えにはなっていないが、自分の気持ちを吐き出せただけでずいぶん息がしやすくなる。

「じゃあ、君は大切な深冬のためにどこまでできる? 俺はなんでもできるよ。今日、深冬に知られずに君を処分することだって」

 智秋さんの視線が私から、私が飲んでいたカクテルグラスに移った。

 これは彼が用意したものだ。本当に飲んでも大丈夫だったのだろうか?

 清々しいと感じた炭酸がお腹の奥で蠢いた気がして具合が悪くなる。

 穏やかに私を処分すると言い切った智秋さんに、改めて底知れぬ恐怖を感じた時だった。

「杏香!」

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