一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 守りたかった弟にここまで激しく拒絶される姿は少し哀れでもあったが、私もなかなか怖い思いをしたから今回だけは耐えてもらおう。

 それに深冬が代わりに怒ってくれたから、もう充分だった。



 駐車場に止めてあった車に乗り込むも、深冬はすぐに発進させなかった。

「智秋が悪かった。あいつは過保護すぎるんだ」

「そうなったのは誘拐事件のせい?」

「聞いたのか?」

 彼は過去を覚えていた上で私に話さなかったのだ。

 そう判断するだけの事情や理由があるのはわかっていたが、寂しさが込み上げる。

「あなたの口から聞かせてほしかったけど、思い出したくない過去だから言わなかったの?」

< 225 / 261 >

この作品をシェア

pagetop