一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 現状についていけなくなった私が喉の奥から押し出すようにこぼした言葉を、不思議そうな顔でこちらを見ていたコンシェルジュが受け止める。

 どうしてそんな偶然がよりによって私の初出勤日と重なるのか、神様を恨む以外にできることがない。

「阿澄さんって社長とお知り合いなんですか?」

「……どう、なんでしょう」

 彼女の質問におかしな答え方をしている自覚はある。

 でも私だって理解できていないのだ。

 深冬は十年前のクリスマスに私のもとを去り、音信不通のまま恋人から他人になった。今日まで私の人生に一切かかわろうとしなかった彼にとって、あの夜は忘れたいことなのではないのか。

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