一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「それが業務に必要なら就業時間内に行うべきだろう。俺は残業を許可していない。よほどの問題がない限りは」

 十年振りに聞く深冬の声は、あの頃のやわらかさを失っている。口調もそれに合わせて固い。

 これが社長と呼ばれる男性の話し方なのだと思う反面、あの頃の彼はどこにもいないのだと突き付けられるようで切なかった。

「今日はよほどの問題があったんでしょう。……それで、私になにかご用でしょうか?」

 転職したばかりの新人に社長自ら挨拶に来たというわけではないだろう。

「用があるから部屋に来いと言ったんだ」

「七時を過ぎても来ないからわざわざ迎えに来てくださったと」

< 49 / 261 >

この作品をシェア

pagetop