一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「絶対になにもしないって約束してくれる?」

「ああ、約束する」

「……触るのもだめ」

 ほっとした様子で彼が頬に手を伸ばしてきたのを見てひと言付け加える。

「いいと言うまでは触れない。……これでいいか?」

「うん、ありがとう」

 礼を言うのは違うような気もするが、素直に聞き入れてくれた彼の気持ちに感謝はしたい。

 本当は失われた十年を埋めたくて堪らないはずだ。私だって同じ想いを抱いている。

 素直に彼を受け入れたかった。でも怖いのだ。私は愛する人を失う痛みを知ってしまった。またあんな思いをするぐらいなら、最初からなにも求めない方がいい。

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