エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「なに、とは……」


質問で返しかけて、彼の視線が俺の手に落ちているのに気付く。
俺も、手元に目を落として……。


「……握力強化訓練だ。それがなにか?」


無意識に握っていた青いゴムボールを、デスクに戻した。


「瀬名さんの右手の握力、六十キロありますよね。十分じゃ……」

「精神安定にも、ちょうどいい」

「なるほど。……でも、握力を鍛えるわりに、握り方がソフトですね」

「新海。用はなんだ?」


腑に落ちないのか、首を捻る彼を遮り、椅子を軋ませて立ち上がる。
新海が、条件反射のように、姿勢を正した。


「はいっ。大島の件で、検察庁に行って参ります」

「そうか、ご苦労。今日は、そのまま直帰しろ」

「はっ!」


軍隊のようにキビキビと回れ右をして、カツカツと踵を鳴らして離れていく背中を見送り、


「ふう」


俺は、椅子に腰を戻した。
一度天井を仰ぎ、ややセットが崩れた前髪をザッと掻き上げる。


大島を起訴したことで、捜査が膠着状態に陥った今、どうしたらあの男の尻尾を掴めるか……。
俺は顎を引いて、デスクの上のゴムボールをジッと見つめた。
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