エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
脳裏に歩の顔を思い描き、再びゴムボールを取って手の上で弾ませる。
――歩をひとりで泳がせたら、あの男は姿を現すだろうか。


歩を保護したのは、一般人を事件に巻き込むことになったら、俺の顔に傷がつくからだ。
だと言うのに、あえて彼女を〝巻き込む〟ことを考えるほど、捜査状況は芳しくない。
あの男の狙いが歩にあるのは明らかなのだから、彼女を囮にすれば、警察の包囲網の中におびき出すことも可能だ。


この際、ストーカー行為という別件逮捕でもいい。
とにかく拘束さえできれば、捜査の進捗が期待できる――。
一瞬、真剣に考えて、ハッと我に返ってかぶりを振る。


なにを考えているんだ、俺は。
どう考えても、本末転倒。


……しかし。
その間も俺が終始監視していれば、歩を危険に晒す前に、男を確保できる。
そうしたら、彼女を保護する必要もなくなる。
家に帰し、本来の生活を取り戻してやれる。
彼女も、それを望んでいるだろう。


「…………」


俺は、顎を撫で、思案した。
――精神安定とは、我ながらよく言ったものだ。
俺は今また再び、新海に指摘されたようにソフトな力で、ゴムボールを握っていた。
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