エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「自分の無能を言い訳するな」

「そんな。ポケットに子猫収めて凄まれても」


朝峰が、ひくっと頬を引き攣らせた。
――俺自身、様にならなかったのは自覚している。
太腿あたりでゴロゴロ喉を鳴らす猫を、ポケットから摘まみ上げてデスクに乗せた。


長い尻尾を振って、ヨタヨタと歩く小さな身体を目で追い、その背を軽く撫でる。
猫が嫌がるように、ふいっと俺の手を避けるのを見て……。


「可愛がってやるから、お前は逃げるんじゃないぞ」

「は……」


思わず漏れた独り言を、朝峰に拾われた。
彼はパチパチと瞬きをして、


「ぶっ」


顔を背け、小さく吹き出した。


「なにがおかしい」

「すみません」


謝りながらも、口を手で覆い隠し、笑いを噛み殺している。


「らしくない。結構本気で参ってるじゃないですか、瀬名さん」


目尻に涙まで滲ませる彼を、忌々しい気分でシッシッと手で払った。


「いいから、さっさと報告書上げろ」


ギシッとチェアを軋ませて背を預け、これ見よがしな溜め息をつく。


「はい」


朝峰は短い返事をしたものの、まだ含み笑いを続け、


「ロスるくらいなら、連れ戻しに行けばいいのに」


腹が立つほど訳知り顔で、挑発的に口角を上げた。


「…………」


言うだけ言って仕事に戻る彼を横目に、俺は無言で顎を撫でた。
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