エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
梅雨入りが近い東京は湿気が強く、酔客も多い車内の空気は劣悪で、三十分の乗車時間も地獄。
自宅の最寄り駅に着くと、私は転がる勢いで電車を降りた。


外の空気も決して快適ではないけど、胸を広げて酸素を取り込む。
気を取り直して改札を出て、マンションまで五分ほどの夜道を歩いていると、ふと、なにか視線を感じた。


この感覚は、まだ記憶に新しい。
私はギクッとして、背後を窺ってみた。


駅から同じ方向に向かう人が数人。
立ち止まる私の横を、何人かのサラリーマンが通り過ぎていった。
一組の若いカップルが、角を曲がって姿を消す。


誰も、私を見てはいなかった。
作倉という男性に尾けられて以来、神経が過敏になっているのかもしれない。


「……気にしすぎ」


私は自分に溜め息をつき、再び歩き出した。
楽しいことを考えて気を紛らわせようとしたけれど、桃子に言われた通り、明日からの週末は予定もなく引きこもりだ。


……せっかくだから、どこかに出かけようかな。
そうだ、純平さんと一緒に行った水族館、今度はナイトショー目当てに行くのもいい。


――夏にバーベキュー。
それも楽しいかもしれないな……。
私は心を揺らしながら、帰路を急いだ。
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