エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
***


土曜日、午後九時。
イルカのナイトショーを観に、夕方から水族館に行った帰宅途中、私は何度となく背後を窺った。


失敗したな……。
遅くなるとわかっていて、ひとりで出かけるんじゃなかった。
ナイトショーはとても楽しかったのに、今になって後悔が募る。


駅からマンションまでのこの道で、見られているように感じたのはつい昨日のこと。
足音とか話し声とか、なんてことのない人の気配にも、神経を尖らせてしまう。
今、数メートル後ろを、女性がひとり、スマホで電話しながら歩いている。


どこまで方向が一緒なんだろう。
神経過敏なのは自覚しているけど、疑心暗鬼になってしょうがない。


作倉という男の人の時は、尾けられていると絶対の自信があったから、迷わず助けを求められたけど、今のこのぼんやりした危機感をどう説明していいかわからない。
女性のヒールの音が、暗い夜道でやたら響くのが、不安を煽る。


マンションまで、直線距離で百メートルほど。
ここから走ってしまおうか……。


心を揺らした時、前方の角を曲がって、白い軽自動車がこちらに走ってきた。
邪魔にならないよう、無意識に道路の端に寄る。
車一台が通るには十分な幅があるから、そのまま通り過ぎると信じて疑わなかった。
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