エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
私を掻き抱く腕に、痛いくらいの力がこもる。
苦しいのに、それすらも幸せで堪らなくて――。


「ふっ、ふえ……」


感極まって、子供みたいにしゃくり上げた。


「バカ、泣くな」


純平さんが、私の頬に手を添え、上を向かせる。
涙でグショグショで、決して見れたものではない泣き顔に、彼も困ったように眉尻を下げ、


「それ以上泣くと、ブサイクになるぞ」


ムードぶち壊しで残念な意地悪を言いながら、額に目蓋、頬に鼻先に、小さくチュッとキスを落とす。
最後に唇に降りてくると、先ほどよりももっともっと濃厚に絡み合った。


必死に呼吸に集中したおかげで、涙も止まった。
まだ掠めそうなほどの至近距離で、まっすぐ見つめ合う。
少し落ち着きを取り戻すと、道路の真ん中で何度も好きと言ったことや、いっぱいキスしたことが、照れ臭くて仕方ない。


「え、えと……あの」


思わず目線を彷徨わせると、ボンネットがへこんだベンツが視界に入った。
途端に、我に返る。


「あ! 純平さん、あの人たち」

「大丈夫。逃がしはしない」


純平さんも、私がなにを気にしたかお見通しだ。
「よっ」と掛け声をかけてその場に立ち上がり、私にも手を貸して立たせてくれた。


「この先には、俺の部下の車が待機している。あの軽、フロントペシャンコだし、今頃引き摺り下ろして、事情を聞いているはずだ」
< 224 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop