エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
早めに仕事を切り上げマンションに帰宅すると、歩が「お帰りなさい!」と、スリッパをパタパタ鳴らして玄関先まで走ってきた。


「ああ。ただいま」


靴を脱ぎながらさらりと返して……。


「…………」


ここでも身を襲うくすぐったさに、口を噤んで手を遣る。
しかし、彼女は俺の様子に気付かない。
横を通り過ぎて先を歩く俺の後をついてくる。


「お夕食、今できたところなんです。あ、先にお風呂にしますか?」


わかりやすく弾む声には、「いや」と答える。


「先にいただく」


ネクタイを緩めながらリビングに入ると、なにやら香ばしい匂いがした。
無意識に鼻を利かせる俺に、彼女が「あ」と声をあげる。


「せっかくリクエスト貰ったのに、鮎の塩焼きじゃなくてすみません」


他意はないんだろうが、妙な気恥しさが込み上げてくる。


「……なにを作ったんだ?」


ソファに歩き、上着を放り投げて、ネクタイを解く。
キッチンに入っていった背中に問いかけると、歩は俺を振り返り、


「コロッケです」


そう言って、にっこり笑った。


「コロッケ?」


俺は首からネクタイを引っこ抜き、上着の上に落としてから、ダイニングへと向かう。


「純平さん、覚えてませんか? 私、ここで初めて作ったのが、コロッケもどきのお焼きで」

「ああ……」


その時の記憶は、すぐに蘇ってくる。
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