エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「はい。すみません。カフェテリアに行ってます」


トレンチコートと荷物をデスクに置いて、財布とスマホだけを手にする。
デスクから離れようとして、主任が私をジーッと見ているのに気付いた。


「? なにか?」


不躾と言っていいくらいの見られっぷりだったから、ややたじろいで問いかける。
主任は、「いや」と顎を撫でながら答えた。


「先週と、なにか印象が違うな。服装のせいかな」

「え? あ」


指摘されて、私は自分の服を見下ろした。
アプリコット色の七分袖ニットに、アイボリー色の膝丈シフォンスカートという、フェミニンなスタイル。
春らしいパステルカラーの服は、普段の私ならセレクトに怯むほど軽やかで、自分でもちょっと落ち着かない。


「先週はずっとスーツだったので……」


目尻を下げて、そう誤魔化す。


「なるほど。普段はそういう感じなのか」


主任は納得したのか、それ以上追及して来なかったけど、私は肩を縮めてそそくさとオフィスから出た。
カフェテリアは、社員食堂と同じく最上階にある。
高層階用エレベーターに乗り込むと、


「……はああっ」


他に誰もいないのをいいことに、前屈みになって深い息を吐いた。
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