身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿は混乱して目を開ける。雑に扱われるならまだ納得できるが、仁のそれは真逆だった。

菖蒲への復讐心を、妹の体をめちゃくちゃにすることで紛らわすのではなかったのか。

愉悦を与えられてしまうとは。まるで弄ばれているかのようだ。

仁の素肌が椿の上で踊る。滑らかな感触に、鼓動が、呼吸が、速度を増していく。

「仁、さん……なんでっ……!」

なぜもっといたぶってくれないのだろう。痛めつけてくれれば、横暴な父を、冷酷なこの男を、不条理な世の中を恨むことができるのに。

これではどう受け止めればいいのかわからない。

「椿」

仁がやっと椿の名を呼んでくれた。初めて菖蒲の妹としてではなく、椿個人を見てくれたような気がした。

「嫌なら目を閉じていろ」

ふと彼を見上げれば、あまりにも真摯な眼差しを椿に向けている。

かつて憧れていた彼の姿と重なり合って、胸が苦しくなった。

「仁さん……」

愛してもない女を、どうしてそれほどまでに真剣な目で見つめるのだろうか。

椿の体を愛おしむように抱くのはなぜだろう。

そこに愛などないとわかっているのに、愛されているのだと錯覚してしまいそうになる。

――気持ちがいいと感じてしまうなんて……。
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