身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
ごとごとという運搬の音に何事かと気になったのか椿が顔を覗かせたが、秘書の姿を見ると慌てて深く腰を折ってリビングの奥に引っ込んだ。

「明日、あらためてご連絡させていただきます。明後日はリハーサルもありますので、朝一でお迎えに上がることになるかと思いますが――」

秘書がちらりと椿のいる方へ視線を移す。

「記者会見が終わるまで、彼女はこの部屋にいる。終わり次第、俺が迎えに来る」

「かしこまりました」

秘書とスタッフは揃って部屋から出ていく。

椿は自身の今後が気になったのか、こちらを覗いて不安そうな顔をした。

――不思議だな。

そうと気づいてしまえば、椿のこんな憂慮に満ちた表情すら尊く、かわいらしく思えてくる。

椿が見せる喜怒哀楽のすべてが愛おしい。

椿にこんな顔をさせてしまった愚かな自分の首を絞めてやりたいし、こんな愛らしい表情を生み出した自分を褒めてやりたくもある。

もちろん、椿を不安なままにさせておくつもりはない。一番愛らしいのは笑顔に決まっているのだから。

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