身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「そんなこともわからないほど、俺の価値観は凍ってしまっていたんだ」

椿はなんのことかわからないといった顔できょとんと首を傾げている。

そんな仕草ですら、仁の周りにいた人間はしてくれなかったではないか。

喜怒哀楽が欠落した世界にまるで花が咲くように、椿が色鮮やかに世界を照らし出してくれるから。

花紅柳緑――ありのままの彼女が、とても美しい。

「俺のそばで笑っていろ」

意味は理解できなくとも、仁が望んでいることは察したようだ。

椿はにっこりと微笑んで、仁の期待に応えてくれた。



しばらくアフタヌーンティーを堪能していると、部屋のチャイムが鳴った。

おそらく秘書が依頼のものを持ってきたのだろう。椿に食べていてくれと指示して、仁は通路の奥にある扉を開ける。

立っていたのは長年世話になっている女性秘書と、バゲージカートに山盛りの荷物を積んだスタッフだ。

「お待たせ致しました」

「わざわざすまない。記者会見まではこちらから指示を出す」

「かしこまりました」

スタッフが部屋に荷物を運び込んでくれる。

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