身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
家を出てたったひとりで、働きながら子どもを産み育てることは可能だろうか。

しかし、考えれば考えるほどに無理という結論に行き着く。

まず次第にお腹が膨らんでいくこの状況で、働く場所が見つからない。そして、家を借りられるほどのお金もない。

――やっぱり、現実的じゃない。

仁と結婚して子どもを産むことが、椿にとってもお腹の赤ちゃんにとっても一番の幸せだ。

仁が椿を選んでくれることを祈るしかなかった。



次に仁から連絡が来たのは金曜日の夜だった。わずかに躊躇いながらも、携帯端末の受話ボタンを押す。

「……はい、椿です」

『体は問題ないか? きちんと食べて、休めている?』

開口一番に体を心配され、椿はほっと胸が温かくなるのを感じた。

仁はお腹の子のことも椿のことも大切に思ってくれているのだろう。

「……ええ。大丈夫です」

『よかった。もし具合が悪ければ、ご両親に説明して休ませてもらうように。俺からも頼んでおく』

「っ……それは……」

つい慌ててしまったのは、両親に妊娠のことをまだ説明していないからだ。

菖蒲に言われたことが引っかかって、この妊娠を公然としていいものか悩んでいた。

< 187 / 258 >

この作品をシェア

pagetop