身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「わかりました。仕事の後でかまいませんか? 仁さんのお家へ伺います」

『迎えにいくよ』

ひとりで平気だと言っても、仁は迎えに行くと言って聞かなかった。

あえて実家の前ではなく大通りで待ち合わせをしたのは、仁と会うことを家族に悟られたくなかったからだ。

――きちんと仁さんの本心を聞いてこよう。心から愛している女性は誰なのか。

椿は意を決するも、内心は怖くてたまらなかった。



翌日の土曜日、仁との約束は二十一時。

萌黄色が涼しげな夏用の紗の着物を着て大通りに出ると、路肩にはすでに仁の車が止まっていた。

椿がやってきたことに気づくと乗車しやすいように車を移動して、助手席のドアを開けてくれた。

「お疲れ様。仕事の後に呼び出してすまない」

「仁さんこそ、お仕事だったでしょう?」

仁は土日も仕事の日が多く、日中に時間が取りづらい。もちろん、事前にアポを取ればきちんと予定を空けてくれるのだが、最近はデートもご無沙汰だった。

「俺は休日でも仕事がない日の方が少ないからな。自慢できたことじゃないが」

「それだけ必要とされているってことですね」

椿を助手席に乗せ、仁の自宅マンションに向けて車を走らせる。

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