身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
誰より優れているとか、相応しいとか、自分となにかを天秤にかけることがどれだけ不毛なことか。椿はやっとその事実に気づく。

自分がどうありたいかを素直に伝えよう、椿は彼の抱擁に強く誓った。



仁は椿の実家に向けて車を走らせながら、まるで夕べの不安を愚痴にして晴らすかのようにお小言を連ねた。

「椿は考えが浅はかすぎる。姿を消すなんて本当にできると思ってたのか? 仕事がなければ家だって借りられないし、家がなければ仕事も見つからない。だいたい、子どもの戸籍はどうするつもりだったんだ」

「……ごもっともです」

椿はさっきの愛の言葉はなんだったのかしらと思いながらも、あまりにも仁の意見がまっとう過ぎて、なんとかなると思っていた自分が恥ずかしくなった。

だとすると菖蒲はどうやって数カ月もの間、姿を消していたのだろう。どこに住み、どこで働いていたのか。後で聞いてみようと思った。

「椿が小切手を使った瞬間、場所を割り出せる」

「仁さんは私を追いかけてこないだろうと思ったので」

「へえ? 俺を試していたのか」

「そ、そんなんじゃ……」

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