身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
慌てて手を横に振る椿を見て、仁は片手でハンドルを握ったまま、もう片方の手を沈鬱そうに額に当てる。

「たいした説明もなく金を渡してしまったことは俺も反省しているんだ。菖蒲にも叱られた。手切れ金に思われても仕方がないと」

「お姉ちゃんが……?」

「菖蒲も反省はしているようだ。まさか本当に妊娠しているとは思わなかったと」

仁はまだ自分を愛しているのだと嘘をついた菖蒲。だが、嘘をつきたくなる気持ちもよくわかる。自分の婚約者が妹に奪われて、いてもたってもいられなかったのだろう。

愛する人を奪われることのつらさは、今の椿には痛いほど理解できる。

「どんな顔で姉に会えば……」

暗くうつむいた椿に、仁は「ひとつ言っておくが」と前置きして切り出した。

「菖蒲とは恋愛関係にはなかった。恋人の振りはしていたが、正直、仲は悪かったよ」

「え!?」

あまりに衝撃を受けて、椿の声は自分でもびっくりするほど大きくなった。

予想以上に驚かれ、仁は申し訳なく苦笑いを浮かべる。

「お互い、政略結婚と割り切っていた」

「でも、あんなに仲良かったのに……一緒にデートをしたり、着物を選んだりして」

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