身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「俺を引っ張り回すのが気分よかったらしい。君への当てつけかもしれない。少なからず菖蒲は君を妬んでいた」

「妬む?」

椿がきょとんと目を丸くする。あのなにもかもパーフェクトな姉が椿のいったいなにを羨ましがるというのだろう。

「隣の芝生は青く見えるっていうだろう。君たち姉妹は典型的なそれだと思うが?」

仁は苦笑する。やがて両親たちが待つ自宅に辿り着き、仁は門の脇のスペースに車を停めた。

「椿は迷惑をかけたことをきちんとご両親に謝ること。俺は君を妊娠させたことを謝罪して、お決まりの台詞を言う」

「お決まり?」

「『娘さんをください』っていうアレだ」

ひょいっと肩を竦めておどける仁に、椿も笑みを浮かべてシートベルトを解いた。



自宅に着いたのは朝の八時過ぎ。

玄関を開けて「ただいま」と声をあげると、血相を変えて飛んできたのは母だ。

「椿!」

ひどく心配したという顔をしていて、申し訳なさを感じた椿は素直に頭を下げる。

「連絡もなしに家を出てごめんなさい」

「それより、体は大丈夫なの……?」

どうやら妊娠のことをすでに知っているようで、不安そうな目を椿のお腹に向けている。

「そのことについては、私から説明させてください。水無瀬社長はいらっしゃいますか?」

仁が声をかけると、母は「ええ」と言ってふたりを居間に案内した。

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