身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「お姉ちゃん、どうかしたの……?」

「なによ失礼ね! ……私だっていろいろ考えるところがあったのよ」

そう言って菖蒲は目を逸らし、ぶっきらぼうに言い募った。

「家を出た数カ月の間、男の家で衣食住世話してもらって、何不自由ない生活をしてたはずなのに、なんだか物足りなかったのよ。やっぱり私はこの店で、一流の着物に身を包んで接客しているのが性に合うなって思ったの」

家を出ていた間、菖蒲には菖蒲なりの気づきがあったようだ。

椿も、菖蒲にはみなせ屋の女将がよく似合っていると思う。

立ち居振る舞いも気品も、洗練された美しさも、菖蒲は椿の憧れであり、大和撫子の象徴だ。

「基盤だけは作っといてあげるから。子どもが大きくなったらしっかり頑張ってよ」

「ありがとう、お姉ちゃん」

開いていた姉妹の溝が埋まった気がした。この先、力を合わせてみなせ屋を盛り立てよう、そう決意を固くする。

きっと菖蒲もいつか結婚して子どもを産むときがくるだろう。そのときは自分が力になろうと、こっそりと胸に誓うのだった。



そして三週間後。予定日よりも一週間早く、椿は女の子を出産した。

二月の終わり、まだ寒さが厳しく、実家の梅の花がちらほら咲き始めた頃だった。

梅の季節にちなんで、名前を『結梅(ゆめ)』と名付けた。

仁が娘を溺愛するのはもちろんのこと、どちらの両親にとっても初孫で、周囲から愛情を一身に注がれることになりそうだ。

椿も仁の妻、そして立派なお母さんになれたことが嬉しくて、この上なく幸せな気持ちに包まれた。


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