身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「ねぇ、椿。あんた、子どもを産んだ後も、本気でみなせ屋を続ける気があるの?」

「うん。しばらくは育休をもらうつもりでいるけど、子どもの保育園が決まり次第、復帰したいと思っているよ」

菖蒲は少しだけ表情を険しくした。育児と仕事の両立ができるのか疑っているのかもしれないし、あるいは椿が戻ってきたら困る理由があるのかもしれない。

ひとつ思い当たった椿は「――あ、でも」と付け加える。

「みなせ屋の女将になりたいとか、そういうわけじゃないの。私は――」

「わかってるわよ『現代ファッションとしての着物を提案したい』でしょう?」

ふたりで経営再建案を立てているときに、椿が繰り返し過ぎて覚えてしまったフレーズを菖蒲が口にする。

「その気があるなら、頑張ってよね。私は既存のみなせ屋を継ぐ。そっちはあんたに任せるから」

菖蒲が期待してくれていることを知り、椿はやる気が俄然湧く。

椿の目がキラキラしてきたのを見て、菖蒲は気恥ずかしそうにため息をついた。

「もしも将来、あんたが着物のデザインとかやりたいって言うなら、自分のブランドとして作るなり売るなり好きにすればいいわ」

以前は椿が作った着物は置かないと明言していたはずなのに――今日の菖蒲は優しすぎて、なんだか怖くなってくる。

< 246 / 258 >

この作品をシェア

pagetop