身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「婦人科にも行ってきました。子どもは問題なく産める体だと」

「椿、落ち着け」

仁が困惑した顔で椿を覗き込んでくる。

だが椿は平静にはなれなかった。涙がほろほろとこぼれ落ちてくる。

「抱いてくれないんですか……?」

やはり仁は自分との間に子どもを授かりたくはないのか。

自分との婚約を破棄し、あのニュースで見た女優と結婚しようとしているのか。

ネガティブな考えが頭の中でぐるぐる巡る。

唇へのキスが欲しいだなんて子どもっぽいことを言うつもりはない。『愛している』という言葉もいらないから、ただ体を重ねて子どもを授けてほしい。

仁は苦い表情をして椿をじっと見つめていたが、結局は慰めも甘やかしもせず、冷酷なまでに言い放った。

「泣いている女性を抱く趣味はない」

はっきりと拒まれ、絶望的な気分になる。

少し考えればわかることだ。取り乱して服を脱ぐ女なんて誰が抱きたがる?

自分のしていることは、すべて裏目裏目に出ている。

椿は余計に涙が止まらなくなり、両手で顔を覆った。アイメイクがボロボロなのは明白で、おそろしくてとても仁には見せられない。

「……椿」

仁の手が椿の体から離れる。あらたまった声に嫌な予感がした。

「これまで君を妊娠させようとしたことは一度もない」

椿の肩がぴくりと震える。今、仁はなんと言った?
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