身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「まるで道具だな」

仁はそう口にして、呆れたように表情を歪めた。

仁は気づいているのだろう、これが椿自身の意志ではなく、父親の指示であることに。

今のは抗うことなく道具のように父親に従っている椿への嘲笑か。

仁は椿に背を向けると、「来い」と命じて廊下の奥に進んでいった。

椿は草履を脱ぎ、外套とバッグを抱え仁の後を追いかける。

夜景が望める広々としたリビングを通り抜け、一番奥の部屋に辿り着くと、仁は扉を開け中に入れと促した。

その部屋を前にして、椿は足が止まる。

部屋を埋め尽くすような大きなベッド――もしかしたら、菖蒲と結婚した暁には、この部屋をふたりの寝室として使うつもりだったのかもしれない。

「君の意志だと言うのなら、脱いでみるといい」

挑発的な指示に、椿の体は凍りついたように動かなくなる。

一応、覚悟はしてきたつもりだった。自分は子を成すための器になるのだと。

……でも……まさか……こんな急に?

いざそのときが訪れると、これまで経験したことのない緊張と恐怖が押し寄せてくる。

「俺の子を産みたいんだろう? それならさっさと済ませよう」
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