身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
そんなに菖蒲の着物を脱ぎたいというのならちょうどいい。この服をこんな形でプレゼントすることになるとは思わなかったが。

「――問題ない。三木谷不動産の社長が向こうに転んだとしても、うちが過半数を割る心配はない。――ああ。森田会長が株を売る心配はないよ。事前に話をつけてある。そのまま監視を続けてくれ」

簡単な指示を伝え終えると、仁は紙袋を持ってリビングに戻ろうとした。

『承知致しました。別件ではありますが、急ぎの用件がもうひとつ――』

早口でまくし立てる秘書に、仁はクローゼットルームのドアにかける手を止める。

『例の報道についてはどうされますか? お父様の就任発表とともに、一連の報道についても説明されますか?』

秘書の言葉をきっかけに仁は重大なことを思い出し、同時に椿の父親がなぜ今さらになって菖蒲を模倣するように命じたのか、その意図がわかって蒼白になった。

今日顔を合わせた瞬間に、まずはスキャンダルの件を謝罪すべきだったのだ。

あれはすべて間違いであり、自分が愛しているのは椿だけだと。

彼女の姿にあまりに驚いて失念していた。

「その件はあらためて連絡する……!」

相手の返答を待たず通話を切ると、仁は急ぎリビングに向かった。

「椿!」

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