身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
ヤケになって抱いてほしい、妊娠したいと涙を流す彼女に、仁は落ち着けと諭すが、やがて口論に発展した。

『君を妊娠させるつもりはないと言ったんだ』

『やはり私では、あなたの妻にはなれない……?』

『そうじゃない。椿、落ち着いて聞いてくれ。俺は――』

そこへ、ふたりの問答を邪魔するかのように携帯端末が鳴動した。秘書からだ。

あまりにしつこく鳴り続けるので、『後にしてくれ』と一方的に告げ電話を切った。

しかし、よほど急ぎの用件だったのか、間を置かず再び携帯端末が鳴動する。

『……すまない。ここにいてくれ。すぐに戻ってくる』

仁は渋々電話に応答すると、『手短に頼む』と断りを入れリビングを出た。



『京蕗社長、申し訳ありません。買収の件で横やりが入りまして――』

秘書の報告に耳を傾けながら、仁はリビングの手前にあるクローゼットルームに入りドアを閉めた。

部屋の端には、開封されていない紙袋がいくつか並んでいる。

中には椿のために用意したワンピースと靴、バッグ、アクセサリーなどが一式入っていた。

普段は着物ばかり着ている椿だが、一着くらい洋服があってもいいだろうと購入したのだ。

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