シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「自分たちで作りなさいよ。食材は昨日買っておいたでしょう?」

 住む場所が別になったんだから自分の分くらいは自分で用意してよと思ってそう言ったんだけれど、やけに真剣な目で見つめ返された。

「無理。今朝の時点で、それを思い知った」

 馬鹿みたいに真面目な顔で言うものだから、何となく惨状を察してしまう。


 そういえば、眞白と義父さんが料理しているところは見たことがないかもしれない。


「……分かった。10人分作るよ」

 諦めに似た心境で答えつつ、「でもせめてご飯だけは炊けるようになってね」とお願いしておいた。

***

 ズシリと重いビニール袋を持つ。

 でも文句は言っていられない。

 わたしよりも重い荷物を他の3人が持っているから。


「うっ、やっぱり米は重いな」

「調味料とか、液体系だってかなりのものだぞ!?」

「みんな重いですよ。野菜は重いし嵩張(かさば)るし」

 荷物持ちにと呼び出した伊刈くんと岸本くん、そして眞白が口々に重いと言いながらそれぞれの荷物を持って歩いている。


 申し訳ないと思いつつも、流石にわたし1人じゃあこの量を運ぶことは出来ないから仕方がない。

 それに、この食材は彼らが食べる分だ。ここは頑張ってもらおう。
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